9.免疫疾患
1.自然免疫とは、病原体の浸入に対して速やかに応答する免疫システムである。そのため、参加する細胞はマクロファージや、樹状細胞のように組織にあらかじめ分布する免疫細胞が主体となる。また、好中球は循環血中に存在するが、病原体の侵入により引き起こされる炎症反応により、血中から組織内へと浸潤する。これらの細胞はいずれも病原体を取りこむ貪食細胞である。
2.補体とは血中に豊富に存在する分泌タンパク群であり、主として肝臓で合成されている。補体の活性化経路は3種類知られているが、それらは補体経路の中心的因子C3をどのようにして活性化するかの違いで分類できる。
3.補体成分の多くはプロテアーゼであり、次々とタンパク質の限定分解(特定の場所が切断されること)が起こることによって反応が進行する。また、補体経路の応答ではこうしたプロテアーゼ活性のはたらきが必須なので、加熱により補体経路を失活させることができる。血清の場合これを非働化処理という。
4.古典経路は抗体、レクチン経路はマンナン結合タンパク(MBP)の病原体への結合がそれぞれ契機となって、C3の切断、活性化が起こる。一方、第二経路は自然免疫そのものであり、自発的に活性化されたC3により引き起こされる。自己の細胞はC3の自発的な活性化、およびその後のカスケード反応を抑制するメカニズムを複数持っているため、自己が補体により攻撃されることはない。
5.補体の機能として、1)膜侵襲複合体による病原体細胞膜の破壊、2)補体(主としてC3b)受容体(CRと呼ぶ)を介した食細胞による病原体の認識・貪食(病原体が補体や抗体でタグを付けられることをオプソニン化と呼び、オプソニン化された病原体は容易に貪食される)、3)C3aやC5aを介した白血球の活性化、遊走、4)マスト細胞の活性化(C3a、C5aにはアナフィラトキシンという別名がある)の4点をあげることができる。
6.食細胞はオプソニン化(抗体、あるいは補体によって)された病原体を貪食するとともに、サイトカインのような分泌タンパク群を数多く放出することにより炎症反応を引き起こす。食細胞はファゴソームを介して病原体を取り込み、細胞内で加水分解酵素を大量に含むリソゾームと融合させることにより、病原体や関連タンパク質を消化、分解する。
7.マクロファージや樹状細胞は活性化するとサイトカイン、ケモカインといった分泌タンパクを放出し、これが白血球(好中球の遊走が重要)に直接に、あるいは血管内皮細胞を介して間接的にはたらき、白血球の血管内から組織への移行を促す。
8.マクロファージや樹状細胞の表面には、病原体の表面に存在する特徴的な構造を認識する受容体が存在しており、それらの多くはToll様受容体(Toll-like receptors: TLR)というグループに属している。
9.樹状細胞は単に貪食するだけではなく、病原体に関する様々な情報を二次リンパ組織のT細胞に伝達する役割を持っている。このことは、自然免疫は獲得免疫の方向付けに大きな影響を持つことを意味する。
10.NK細胞はリンパ球の一種で、自己の細胞には攻撃を行わないが、腫瘍細胞(がん)の一部のように「自己」の目印を失った細胞群に対しては強く反応し、これを除く。
1.病原体の多様性に対応する免疫系のメカニズムは3つあげることができる。一つは抗体(イムノグロブリン)で、B細胞が産生し、病原体に目印をつけるはたらきをする。二つめはT細胞受容体で、抗原提示細胞(樹状細胞、マクロファージ、B細胞)が示す抗原ペプチドを認識する。この二つは、多様な病原体にそれぞれ結合できるだけの範囲のレパートリーの分子群があらかじめ用意されている。一方、三つ目は主要組織適合性抗原(MHC)であり、これは抗原ペプチドをT細胞に提示するための枠組みである。MHC分子は多様なペプチドを提示する能力を持つが、これは一つの分子が様々なペプチドを提示できるという仕組みであり、MHC分子そのものに抗体やT細胞受容体に見られる多様性があるわけではない。
2.抗体の機能として、以下のものをあげることができる(IgGを代表として列挙)。1)中和(病原体そのものや、それが産生する毒素に結合してそれらを働かなくする機能)、2)オプソニン化(マクロファージ等の貪食細胞が取り込みやすいように抗原に目印をつける機能)、3)補体活性化(補体の古典経路は抗体依存性である)、4)抗体依存性細胞傷害(抗体により目印が付けられた病原体を標的として様々な免疫細胞が攻撃を行うこと)
3.抗体の構造は、それぞれのB細胞クローンにより配列が異なる領域であるV領域と、同じクラスの抗体であればほぼ同一の配列であるC領域に分けることができる。V領域は抗原との結合に必要な領域であり、C領域は抗体の機能を発揮するために必要な領域である。
4.抗体は二本の重鎖と二本の軽鎖がジスルフィド結合を介して会合した4量体(4本のポリペプチドから形成される)である。抗体は一分子当たり二箇所の抗原結合部位を持ち(これを二価という)、ヒンジ領域があるために、抗原間の距離が一様でない場合も標的を補足できる。
5.抗体をパパインで消化すると、二つの抗原認識ユニット(Fab)と残る一つのユニット(Fc)が得られる。一方、ペプシン消化では、一つの二価の抗原認識ユニット(F(ab')2)と小さな消化断片が得られる。(F(ab')2)断片は抗原を強く認識できるが、Fc領域を持たないため抗体の機能は失われている。
6.抗原の一部で、抗体によって認識されている領域のことをエピトープ(抗原決定基)という。
7.一般に低分子は抗原として免疫系に認識されないが、キャリアと呼ばれる高分子と結合させることにより抗原として認識され、免疫応答が引き起こされる。キャリアにより抗原性を持つようになるこうした低分子をハプテンという。
8.抗体のV領域と抗原との間にはたらく親和性をアフィニティという。一般に抗体は二価であることと、5分子一組のIgMのようなケースがあることから、実際に作用する抗体と抗原間での総体的な親和力は個々の親和力の和より大きい。これをアビディティという。アビディティは多数の結合部位間の相互作用が相乗的にはたらくので、アビディティ>>アフィニティ(の総和)である。
9.抗体は重鎖の違いにより5種類に分類され、これをアイソタイプという。
10.体内で最も多い抗体はIgA、血中に限定するとIgGである。IgAは二量体、IgMは五量体、IgG、IgEはどちらも単量体として分泌される。
11.補体の古典経路の活性化はIgM、およびIgGによって引き起こされる。IgAは粘膜免疫、IgEはアレルギーや寄生虫に対する免疫でそれぞれ機能するアイソタイプである。
12.IgGは胎盤を通過し胎児、および新生児免疫に重要なはたらきをしている。また、新生児は母乳中に含まれるIgAを利用して、消化管からの感染を防御している。
13.通常免疫応答では最初期はB細胞はIgMを発現しており、その後T細胞からのシグナルにより、標的病原体に対して適切な抗体が重鎖の遺伝子組換えにより選択される。この過程をクラス(アイソタイプ)スイッチといい、ヘルパーT細胞から産生されるサイトカインの種類がこれを決定している。
14.抗体のV領域には突出して変異の多い場所が3箇所ある。そのうちアミノ末端から3番目のCDR3領域の多様性は、体細胞レベルの遺伝子組換えによって生じる。多様性を生み出す方法は次の通り。
1)
V, D, Jという3領域はモジュール構造になっていて、遺伝子組換えの際に複数のユニットの中からそれぞれの領域につき一つのユニットを選ぶ方式になっている(組合せを利用した多様性)。2)
遺伝子組換えにより領域間をつなぐ際に、余分な塩基対が組み込まれることにより配列多様性が生まれる。
15.B細胞は抗原による刺激を受けて増殖するが、その後には次のような成熟過程がある。
1) IgM産生(分泌)細胞として成熟する、2)クラススイッチ(アイソタイプスイッチ)を行い、IgGあるいは他のサブクラスの抗体を産生する細胞へと成熟する、3)親和性成熟(Affinity
maturation):抗体のアミノ酸配列を一部変異させることを通じて、より結合能の高い抗体を産生する、4)記憶(メモリー)B細胞として留まり、再度病原体があらわれる際に速やかに活性化する。
16.抗体産生に特化したB細胞を形質細胞(plasma cell)といい、RNAスプライシングにより得られる分泌型の抗体を盛んに産生する。一方、B細胞の成熟過程の大半において抗体は膜結合型分子として機能しており、形質細胞はB細胞の最終分化段階の一つである。
17.抗原はB細胞表面の膜結合型の抗体分子(=B細胞受容体)に補足され、細胞内に取り込まれMHCクラスII分子を介してヘルパーT細胞に提示される。この抗原ペプチド+MHCクラスIIの複合体を認識できるヘルパーT細胞が存在する場合は、両者は結合し、様々な膜分子、可溶性因子を通じて、お互いに活性化しあう(抗体産生は増強される)。
18.通常、抗原となるものはタンパク質であり、B細胞は、自らが提示する抗原を認識するヘルパーT細胞があらわれることにより活性化する。一方、細菌表面の多糖のように繰り返し構造に富む物質は、それのみでT細胞に依存せずにB細胞の活性化を引き起こすことができる。前者を胸腺依存性の抗原、後者を胸腺非依存性の抗原という。
19.クラススイッチや親和性成熟、抗体産生の記憶といったB細胞の成熟は全てT細胞に依存するプロセスである。よってこれらは胸腺非依存性の抗原に対する応答では通常起こらない。
1.主要組織適合性抗原(MHC)はクラスIとクラスIIに分類することができる。ヒトのMHCのことをヒト白血球抗原(HLA)といい、いわゆる白血球の血液型として知られる。臓器移植の際の適合性はHLAの型によって判断される。
2.MHCは形質膜表面に発現する膜タンパク質であり、表面の溝に抗原ペプチドを結合させた状態で、T細胞に抗原提示をする。
3.MHCクラスIはほぼ全ての細胞種に発現しており、α鎖とβ2ミクログロブリンから構成されている。MHCクラスIIは外来抗原を処理できる細胞種(樹状細胞、マクロファージ、B細胞)に発現しており、α鎖とβ鎖からなる。
4.MHCは抗原ペプチドが結合する溝の位置を構成するアミノ酸残基に多型性(ポリモルフィズム)を有しており、そのためにMHCの型は個体によって異なる。
5.抗原ペプチドは必ずMHCとの複合体としてT細胞に認識される。T細胞受容体は抗原ペプチドだけではなく、MHCもあわせて認識している。
6.MHCクラスIは細胞内で合成しているタンパク質の部分ペプチドをT細胞に提示する仕組みである。よって、免疫系によって認識されるのは異常なペプチドを提示している細胞であり、通常はウイルス感染細胞である(ウイルス由来ペプチドを提示するため)。MHCクラスI分子はT細胞側のCD8分子によって認識されるため、クラスIの提示を認識するのはCD8+ T細胞である細胞傷害性T細胞である。
7.MHCクラスIIは細胞外の抗原を取り込み消化したペプチド断片をT細胞に提示する仕組みである。MHCクラスII分子はT細胞側のCD4分子によって認識されるため、クラスIIの提示を認識するのはCD4+ T細胞であるヘルパーT細胞である。
8.抗原提示細胞(APC)はそれぞれ次のような役割を持っている。樹状細胞:最も高い抗原提示能を持ち、病原体の浸入した局所から近傍の二次リンパ節に移動し抗原提示する。マクロファージ:局所で病原体を取り込み抗原提示する。エフェクターT細胞として局所に遊走してきたT細胞を再度活性化する。B細胞:抗体が捕捉した抗原を取り込み消化し抗原ペプチドを提示する。T細胞による抗原ペプチドの認識により、B細胞が活性化され、クラススイッチや抗体産生の促進といった応答が誘導される。ほぼ全ての細胞がMHCクラスIによる抗原提示を行うことから、区別するために外来抗原を処理してクラスIIを介して提示する上記の細胞をプロフェッショナル抗原提示細胞ということがある。
9.APCは抗原を貪食(ファゴソームによる)、あるいはエンドソームを介して取り込み、これらの小胞が消化酵素群を含むオルガネラであるリソゾームと融合することにより消化され、ペプチド断片となる。
10.ウイルス感染細胞は細胞傷害性T細胞により除去される。MHCクラスIーT細胞受容体、CD8を起点として形成された結合面では、細胞傷害性T細胞から標的細胞の形質膜を傷害するパーフォリンやアポトーシスを誘導するプロテアーゼであるグランザイムBといった分子が放出され、ウイルス感染細胞は細胞死する。
11.APCとT細胞の間にはMHCー抗原ペプチドーT細胞受容体、CD4/8という複合体形成に加えて、さらに多様な組合せのペアが形成される。これらは両細胞に副次的な刺激を与え、それぞれの細胞を活性化するものや、接着を強化するものなどがある。これらの分子群の集結によって形成された密着面のことを免疫シナプスという。
12.T細胞受容体とB細胞受容体(膜結合型抗体)のシステムは非常によく似ているが、B細胞受容体の場合はMHCによる拘束はない。
13.T細胞受容体は、α、βの二量体からなる(γ、δ二量体のT細胞も知られている)。抗原ペプチドの認識は両者の間に形成される立体構造を介して起こる。
14.T細胞受容体の多様性の獲得は、抗体と同様、遺伝子組換えによって生じている。V-D-J領域の組換えとともに、組換え時のつなぎめに挿入配列が入ることにより多様性が確保される。
15.T細胞はCD4、CD8ともに発現しない前駆細胞(CD4-CD8- T細胞)として骨髄から胸腺に移動し、両方が発現するCD4+CD8+ T細胞に成熟する。その後、胸腺で自己、非自己を区別できるように教育を受け、CD4-CD8+ T細胞(細胞傷害性T細胞)、あるいはCD4+CD8- T細胞(ヘルパーT細胞)として胸腺から離れる。
16.胸腺では自己(胸腺上皮細胞)のMHCによるペプチド提示を受け、自己のMHC分子を認識し、弱く活性化されたT細胞のクローンが生き残り、次のステップに進む(ポジティブセレクション)。こうした制約を受けることをMHC拘束という。
17.その後、胸腺内の抗原提示細胞により提示された自己抗原を強く認識するT細胞クローンは、アポトーシスにより死滅する(ネガティブセレクション)。こうして得られたT細胞の集団は、抗原特異性の幅が大きく、いずれも自己のMHCを認識するものの、自己のタンパク由来のペプチドには反応しないという理想的な性格を有している。
1.T細胞の活性化は、抗原提示細胞による抗原のMHCを介した提示のみでは起こらない。活性化した抗原提示細胞は、B7のような膜タンパク質やサイトカインの放出を介して別の経路からも同時にT細胞を刺激する。こうした刺激のことを共刺激 (co-stimulation)という。
2.T細胞受容体の抗原提示による活性化は様々な現象を引き起こすが、その中の増殖応答にはIL-2が重要な役割を果たす。IL-2は活性化したT細胞により産生、周囲に放出される。T細胞のIL-2受容体は通常低親和性であるが、活性化によりα鎖が発現するようになり、100倍程度IL-2に対する感受性が増大する。このため、活性化したT細胞が選択的に増殖することになる。
3.T細胞受容体は、抗原ペプチドーMHCの複合体を認識するα・β鎖に加えて、CD3やζ鎖のようにシグナル伝達に必要な複数のコンポーネントから構成される巨大な膜タンパク質の複合体である。
4.T細胞受容体のシグナル伝達ではタンパク質のチロシンリン酸化が重要な役割を果たしている。
5.シグナル分子の多くは、一つのポリペプチドの中に機能的に区別できるいくつかの領域を持つ。これは立体構造的にも区別できる単位であり、ドメインと呼ばれる。例えば、SH2 (Src homology-2)ドメインは、チロシンキナーゼによりリン酸化されたタンパク質中のチロシンを認識するためのドメインである。
6.T細胞受容体のシグナル伝達は大きく二つの方向性があり、一つはホスホリパーゼCγの活性化を介したイノシトールリン脂質代謝を活性化する経路、もう一つは低分子量Gタンパク質のRasの活性化を介するMAPキナーゼカスケードの活性化である。
7.細胞外からの刺激は、シグナル伝達により最終的には転写応答に結びつく。T細胞受容体の活性化の場合は、NF-κB、NF-AT、AP-1といった転写因子群の活性化であり、その結果の一つとしてIL-2遺伝子の転写の誘導が起こる。
8.サイトカインは分泌タンパク質であり、主として血球系の細胞(特にヘルパーT細胞やマクロファージなど)が産生する。サイトカインは標的細胞の形質膜にある受容体に結合して、その作用を発揮する。免疫系はサイトカインを仲介役として細かなコミュニケーションをとることにより、適切に制御されている。サイトカインの一部は、線維芽細胞やケラチノサイトのような非血球系の細胞によっても産生される。
9.一つのサイトカインは複数の細胞種に作用するが、その作用は細胞種により異なることがある。
10.ある細胞に複数のサイトカインが同じ作用を引き起こすことがある(作用の冗長性、重複)。
11.複数のサイトカインの作用は相乗的であることもあり、また一方、拮抗的にはたらくこともある。
12.サイトカインの作用は受け手にその受容体があるかどうか、あるいは受容体の発現量によっても調節される。
13.TNF-αは主として活性化したマクロファージにより産生され、微生物への感染防御の際に重要な役割を果たす。
14.TNF-αの主たる作用は、貪食細胞の遊走を誘導すること、および発熱や急性期応答を引き起こすことである。過剰に産生されたTNF-αは自己の組織を傷害し、敗血症の原因となる。
15.IL-12は活性化したマクロファージ、および樹状細胞により産生され、NK細胞、T細胞からのIFN-γ産生を促す。Th1応答を強力に誘導するサイトカインである。
16.Type I インターフェロン(IFN-α、IFN-β)はウイルス感染に対する防御系として重要である。主要な作用として近接細胞に作用して「抗ウイルス状態、ウイルス抵抗性」の状態にシフトさせること、MHCクラスIの発現を強化することがあげられる。
17.ケモカインは低分子の分泌タンパク質で、細胞の遊走を促進する効果を有する。ケモカイン受容体は七回膜貫通型受容体であり、そのシグナル伝達は三量体型Gタンパク質のGiを介して起こる。
18.Th1応答とはIFN-γを産生するヘルパーT細胞の応答であり、マクロファージやNK細胞による自然免疫応答を強化し、主としてバクテリア・ウイルス感染に対応するしくみである。
19.Th2応答とはIL-4、IL-5、IL-13などを産生するヘルパーT細胞の応答であり、寄生虫感染やアレルギー応答の際に主として活性化される応答である。
20.IL-4はTh2型応答を強力に誘導するサイトカインであり、T細胞によって産生される。
21.IL-4はIFN-γの機能に拮抗的にはたらく。IL-4によりB細胞ではIgEへのクラススイッチが促進される。
22.IFN-γは主としてT細胞に由来するが、自然免疫の増強、細胞性獲得免疫の指令伝達物質として中心的な役割を果たしている。マクロファージはIFN-γにより活性化され、貪食能や殺菌能を高める。
23.IL-10は免疫抑制的な作用を持つサイトカインであり、マクロファージによるIL-12産生の抑制や MHCクラスIIの発現抑制にはたらく。
24.TGF-βはやはり免疫抑制的なサイトカインであるが、B細胞に作用するとIgAへのクラススイッチを誘導する。
25.IL-5は好酸球の分化、増殖を支持するサイトカインであり、アレルギーと関連が深い。
26.GM-CSFやG-CSFは顆粒球(特に好中球)の供給に重要なサイトカインであり、癌の化学療法や骨髄移植の際にダメージを受けた骨髄における造血系の回復に用いられている。
27.Th1応答とTh2応答はそれぞれ互いに他を抑制する関係にある。
28.Th1、Th2いずれの応答も産生されたサイトカインがさらにその応答を強化するフィードフォワード的な側面を有している。
29.Th1応答を細胞性免疫、Th2応答を体液性免疫という。
30.ウイルス感染細胞は、MHCクラスIによる抗原提示を通じてウイルスに感染したことを細胞傷害性T細胞に伝える。ウイルスの中にはMHCクラスIの発現を抑制して細胞傷害性T細胞から逃れようとするものもあるが、こうした感染細胞はNK細胞により捕捉される。
1.T細胞は血管から胸腺皮質に浸入し、さらに髄質へと移動し、その後胸腺を出る。この過程で、胸腺上皮細胞、樹状細胞などを通じて教育を受け、自己MHCを認識するが自己抗原には殆ど反応しないサブセットが選択される。
2.一次リンパ組織とは、血球系の幹細胞が存在する骨髄、およびT細胞が教育される胸腺のことを指す。
3.二次リンパ組織とはリンパ節、脾臓、パイエル板(小腸に分布する特殊なリンパ節)といった組織のことを指す。
4.二次リンパ組織はT細胞が豊富な領域と、B細胞が豊富な領域に分けることができる。B細胞に富む領域を濾胞という。
5.二次リンパ組織における整然とした血球系細胞のすみわけには、複数のケモカインの産生が関与している。B、T、あるいは樹状細胞の発現するケモカイン受容体のパターンはそれぞれ異なっており、そのことがある場所にある血球系細胞が集積する原因となっている。
6.腸管免疫は食物という異物に対する寛容、腸管内のバクテリアや寄生虫に対する応答など、数多くの機能を担っている。小腸にはパイエル板という特殊な構造のリンパ節があり、これに近接してM細胞という抗原を輸送する特別な上皮細胞が存在している。
7.活性化したリンパ球は、もとの病原体が浸入した場所へ移動し、効果的な病原体の排除を補助する。これは血管から炎症部位への浸入を伴う。
8.一方で、Naiiveなリンパ球は血管外へ移動することはなく、抗原に出会い活性化されるまでは二次リンパ組織間を移動する。
9.皮膚組織に存在する特殊な樹状細胞のことをランゲルハンス細胞という。
1.自己抗原に対して反応するリンパ球は細胞死を起こすことにより排除される。例えば自己抗原に強く反応するT細胞は胸腺でネガティブセレクションによりアポトーシスを起こす。
2.組織特異的に発現する自己抗原(例えば膵臓β細胞のインスリンなど)は胸腺において十分に教育できない(胸腺での発現が強くないため提示できない)ため、ある頻度で自己抗原反応性のT細胞が出現する。
3.自己抗原に反応性を持つリンパ球は末梢においてもいくつかのメカニズムにより排除される。1)抗原提示細胞からT細胞が抗原を提示される際に、共刺激が入力されない場合、そのT細胞は次回に共刺激のある条件で刺激されても反応できない。これをアナジーといい、炎症応答を伴わない異物との接触で免疫応答が起こらない一つのメカニズムと考えられる。また、共刺激がないだけでなく、抑制性のシグナルが同時に入力される場合もアナジーが起こる。2)繰り返し、抗原による刺激を受けることによってもT細胞は細胞死を起こす。これをactivation-induced cell deathといい、自己抗原には一般的に頻繁に接することを利用した寛容のシステムの一つである。3)制御性T細胞を介した免疫抑制。
4.免疫寛容は、1)抗原量が多く、2)暴露される期間が長期で、3)同時に起こる炎症反応レベルが低い場合に一般に起こりやすい。
1.腫瘍に対する免疫応答のことを腫瘍免疫といい、細胞傷害性T細胞(CD8+ T細胞)が腫瘍細胞の排除に重要な役割を果たしている。
2.腫瘍細胞は正常細胞の持たない特徴を持ち、それらの一部は腫瘍抗原として免疫系に認識される。
3.腫瘍抗原には様々なものがあり、1)自己の変異タンパク質、2)過剰発現、異所発現したタンパク質、3)原がん性ウイルス産物、4)腫瘍胎児性抗原、5)糖脂質、糖タンパク質といったカテゴリーに分類できる。
4.活性化したT細胞、NK細胞はいずれもIL-2に対して応答性が高いことから、両者を高濃度のIL-2で刺激して体内に戻すという免疫療法が知られている。この細胞をLAK細胞と呼ぶが、その殆どはNK細胞で構成される。
5.腫瘍細胞は、1)腫瘍抗原の発現の抑制、2)MHCクラスIの発現の抑制、3)免疫抑制作用のあるサイトカイン(TGF-βなど)の放出、4)免疫寛容の誘導、といった手段を通じて免疫システムの監視から逸脱する。
6.腫瘍に対する免疫療法の多くは、腫瘍抗原に特異的なCD8+ T細胞をいかに効率よく、大量に得るかに工夫を凝らしている。
7.移植では、供給者(ドナー)から移植片(グラフト)が受容者(レシピエント)へ移植される。
8.移植免疫はMHCのアロタイプ(個体によりMHC分子の一部の箇所が相違すること)が異なる場合に起こる免疫応答であり、グラフトのMHC分子(アロ抗原という)がレシピエントの免疫系により攻撃される。この反応を拒絶反応という。
9.移植免疫応答の発症を抑制するために、シクロスポリンをはじめとする免疫抑制剤が用いられる。しかしながら、それらの選択性は極めて低いため、患者はウイルスや微生物の感染に注意する必要がある。
1.過剰な免疫応答により生体が傷害を受けることがある。これを広い意味での「アレルギー」という。
2.アレルギー反応は大きく四分類される (GellとCoombsによる分類)。
1) I 型:即時型アレルギー。IgEとIgE受容体を有するマスト細胞により引き起こされる。花粉症や食物アレルギーなど狭い意味でのアレルギーが該当する。
2) II 型:IgG、IgMといった抗体が細胞表面、あるいは細胞外マトリックスに対して結合することにより起こる免疫応答。自己細胞の貪食、白血球の遊走、炎症反応が進展する。
3) III 型:
IgG、IgMといった抗体が抗原と免疫複合体を形成し、これが沈着することによって起こる免疫応答。白血球の遊走、炎症反応の進展。
4) IV 型:T細胞により引き起こされる応答。マクロファージの活性化、サイトカインによる炎症反応の促進。細胞傷害性T細胞による自己組織への傷害などが起こる。
3.II 型の中には、抗体がたまたま生体内で起こる反応を模倣するために起こる疾患もある。例えば、甲状腺刺激ホルモン受容体に対する抗体は、あたかも甲状腺刺激ホルモンのような役割をし、甲状腺ホルモンが過剰に産生されてしまう。
4.IV 型はT細胞が関与する免疫応答で、接触性皮膚炎やツベルクリン反応が該当する。CD4+ T細胞がTh1型応答を介して炎症反応を促進する場合と、CD8+ T細胞が直接、自己細胞を傷害する場合がある。
5.自己免疫疾患の発症には感染応答が関与していることが推察されている。通常は自己反応性のT細胞は抗原提示を受けても、共刺激が入力されないのでアナジーに陥る。しかし、感染応答が起こり抗原提示細胞に共刺激分子がたくさん発現しているケースでは、同時に自己反応性T細胞も活性化される。
6.病原体由来の抗原が自己組織と構造的に近い場合、病原体の感染が自己反応性のT細胞を活性化のきっかけとなる場合がある。
7.I 型アレルギーはTh2型の免疫応答の典型の一つである。ヘルパーT細胞により産生されたIL-4はB細胞のクラススイッチを誘導し、IgEの産生を高める。
8.マスト細胞は高親和性のIgE受容体(FcεRI)を発現しており、組織ではIgEを結合させた状態で存在している。ここにIgEが認識できる抗原があらわれることにより、FcεRI受容体が活性化される。受容体の活性化により脱顆粒が起こり、顆粒内のヒスタミンやプロテアーゼが細胞外へ放出される。
9.ヒスタミン、PAFやロイコトリエンは血管透過性の亢進を引き起こし、それが原因となって発赤、膨疹が起こる。
10.Th2応答優勢であるアレルギー反応に関わる細胞としては、マスト細胞以外に好塩基球や好酸球がある。
11.免疫不全症には免疫応答に関わる遺伝子の変異が原因となり発症する先天性免疫不全症と、ウイルス感染や他の疾患が原因となって起こる後天性免疫不全症がある。
12.HIVはレトロウイルスの一種であり、RNAをゲノムとする。
13.HIVはCD4と一部のケモカイン受容体に結合し、感染する。
14.HIV感染後、潜伏期間を経てAIDSが発症すると、様々な免疫疾患があらわれるようになる。日和見感染していたバクテリアやウイルス、真菌による感染症に始まり、カポジ肉腫に代表される腫瘍の発生、衰弱、死に至る。