研究テーマ
1.培養冬虫夏草とその有効成分に関する研究
冬虫夏草とは、昆虫と寄生菌類の子実体の合体したもので、生薬としては、コウモリガの幼虫に寄生したフユムシナツクサタケという寄生菌が知られている。この冬虫夏草は、古く、滋養強壮作用、抗老化作用があるといわれており、鎮静作用や免疫抑制作用なども確認されている。当研究室では、フユムシナツクサタケを人工培地で培養し、発育した子実体を乾燥したものを用いて、その水抽出物が、in vitro において スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD) 様活性を有すること、脂質過酸化及び動脈硬化に深く関与している低比重リポ蛋白( LDL) の酸化変性に対する抑制作用を示すことを明らかにするとともに、in vivo においても抗酸化作用を有し、動脈への脂質蓄積を抑制することも明らかにした。また、がん転移に対する抑制作用も in vitro 及び in vivo において明らかにした。現在は、培養冬虫夏草中の活性物質の本体としてコーディセピン(3’-deoxyadenosine)に注目し、その抗癌作用の標的分子がアデノシンA3受容体であることを解明したところである。
2.がん転移に関する研究
今日の医学の進歩により、不治の病とされてきたがんも早期発見、早期治療を施せば完治しうる疾病となりつつあるが、依然として、死亡原因のトップを占めている。その最大の理由は、がん転移にあると考えられており、がんの転移を阻止できれば、がんによる死亡率が飛躍的に低下するはずである。当研究室では、マウスがん転移モデルを用いた実験において、プロテインキナーぜC阻害剤であるPKC412 (4’-N-benzoyl staurosporine) にがん転移抑制作用のあることを見いだし、報告した。今後は、新しい癌転移モデルの開発と、PKC412あるいは、より有効かつ安全ながん転移抑制薬の臨床応用を目指して研究を進めていきたいと考えている。
3.ニコチンとタールを除去したタバコ煙水抽出液の薬理学的研究とその活性成分の探索
喫煙は多くの疫学的研究から発癌(イニシエーション)および癌の進展(プロモーション)に対する重要な危険因子とされている。タバコ煙に含まれるニコチンやその誘導体およびタールは癌細胞の周辺組織への浸潤や遊走を促進させることにより、モデル動物における癌転移を促進させることが実験的に明らかにされている。しかし、タバコ煙中の他の物質が癌転移に及ぼす影響について詳細に追究した研究はほとんど見当たらない。
当研究室では、ガラス繊維のフィルターによってニコチンやタールを除去したタバコの主流煙成分をリン酸緩衝生理食塩水に抽出したタバコ煙水抽出液 (CSE) が血行性癌転移に及ぼす影響を検討し、CSEが癌細胞の遊走能の抑制を介して、血行性癌転移を抑制することを見出している。
現在、CSEが癌転移の種々のステップに及ぼす影響およびそのメカニズムについての研究やその活性成分の探索を進めている。